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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)242号 判決 1961年8月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人朴宗根の上告趣意(補充上告趣意を含む)中憲法三六条違反をいう点は実質は量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、その他の論旨に関しては後記弁護人大塚一男外二名の上告趣意第一点ないし第四点に対する説示をここに引用する。弁護人小林直人の上告趣意はるる論述するが結局量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人大塚一男、同寺本勤、同島田正雄の上告趣意第一点について、

(一)  所論第一の事実について、

(イ)  射精もせず、性交のみをしたという被告人の自供が必ずしも経験則に反し、延いてその真実性が疑わしくなるものとも云えず、従ってこのような自供だからといって、姦淫の事実がなかったものと断定できるわけのものではない。

(ロ)  原判決の支持した第一審判決によれば、

「被告人は同女を姦淫しようと決意し、……手指でその咽喉部を絞扼する等の暴行を加え、同女を仮死状態に陥らしめた上これを右田圃内約一五米北方まで引きずって行き同女を強いて姦淫している中、女が蘇生し誰にも云わないから逃げて下さいと哀願すると、被告人も立ち上り、自分の石けん箱が紛失しているのに気付き、附近を探している中隙を見て同女が突然逃げ出したので、再び同女をその場に引倒して仰向けにし、その上に馬乗りとなり、前同様両手指を以てその頚部を扼して同女を失神させ、更に同女を強いて姦淫し、因って右扼頚により同女を間もなく、同所で窒息するに至らしめたものである」と認定しているのであり、これによれば、原判決は所論第二回目の姦淫の時同女はすでに死亡していたとは認定してはいないのである。

されば所論はすべて右判決を正解していないことに由来するものである。

(二)  所論第二の事実について、

原判決の支持した第一審判決は、「……俄に劣情を催し、右ナイフで同女を脅してこれを姦淫しようと考え、被告人の様子に不安を抱き立ち上ろうとした同女の右手首を左手で掴み右手で右ナイフの刃を起して突きつけ、ちょっと来いと申し向け同女が愕いて何をするんですかと言いながら逃げようとするとなおも離さず、同屋上の時計台下附近まで連行し、同女が抵抗しながら、大声で何をするんですか、ひと思いに殺しなさい等とわめいたので、その騒ぎを聞きつけ、人が来ることをおそれ、また同女に自分の顔を憶えられたままにしておいては犯行が発覚されるので同女を殺害した上情慾を遂げようと決意し、いきなり左手を同女の頚部に巻いて絞めつけた上同女をその場に引倒し、仰向けに倒れた同女の横あいから両手指でその頚部を緊扼し、更に仮死状態になった同女を屋上西側ステイーム管防護壁内部に運び入れた上完全に死に至らしめるため、同女の上に馬乗りとなり再び両手指にてその頚部を扼し更に所携の日本手拭をその頚部に巻きつけて絞扼して即時窒息死に至らしめてこれを殺害した上同女を強いて姦淫し」と認定しており、これによれば右判決は姦淫の目的の為め、その手段として判示のごとき暴行脅迫を用い結局被害者を窒息死に至らしめ、姦淫の目的を遂げたという趣旨を認定しているのであって、本件の場合は、姦淫行為が殺害の直後であったとしてもこれを包括して強姦致死罪と解すべきである。所論引用の昭和二三年一一月一六日の当裁判所の判例は、本件に適切でない。

上叙の次第で、所論はひっきょうするに事実誤認ないしはこれを前提とする法令違反の主張、換言すれば原判示に副わない事実関係を前提として、原判決を攻撃するものでしかなく、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点について、

被告人の捜査官に対する所論自白が強要ないし誘導に基くものであると認むべき資料は一も存しないから、所論違憲の主張はその前提を欠き、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について、

原判決及びその支持する第一審判決は所論自白のみによって判示犯罪事実を認定しているのではなく、その判文によって明らかなとおり、多数の補強証拠を挙げているのであるから、所論もまたその前提を欠くに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第四点について、

所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、(原審竝びに第一審とも所論鑑定の申請を採用しなかったことを不当な処置と非議する程の事跡は本事案の経過に鑑み認められない)刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第五点について、

所論は量刑への非難の範囲を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

そして、記録を慎重に調べても、刑訴四一一条一号ないし三号を適用すべきものとは認められない。なお、量刑の点に関しては、論旨を十分に検討した上で諸般の事情を斟酌し、被告人の不憫な心情にも思を致し、熟慮に熟慮を重ねたが、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するという程に量刑が不当のものとは、とうてい考えられないのである。

よって、刑訴四一四条、三九六条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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